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甲府地方裁判所 昭和58年(ヨ)194号 決定

債権者 国

代理人 東松文雄 松本智 古川敞 高橋引行 今井一尋 武田光仁 ほか八名

債務者 忍草入会組合 ほか一名

仮処分決定

当裁判所は債権者の申立を相当と認め、債務者ら両名のため、債権者に保証として一括して金一五〇万円を供託させて、次のとおり決定する。

主文

一  債務者らは、債権者に対し、仮に別紙物件目録(二)及び(三)記載の物件を収去して、同目録(一)記載の土地を明渡せ。

二  債務者らが、この決定送達の日の翌日以降四日以内に前項記載の物件を収去して同記載の土地を明渡さないときは、債権者の申立てを受けた甲府地方裁判所執行官は、債務者らの費用をもつて、これを収去することができる。

(裁判官 三井喜彦 廣永伸行 森宏司)

物件目録 <略>

別紙図面 <略>

(参考)

不動産仮処分申請書

申請の趣旨

一 債務者らは債権者に対し、仮に別紙物件目録(二)記載の建物及び同目録(三)記載の物件を収去して同目録(一)1記載の土地を明け渡さなければならない、

二 債務者らにおいて本命令送達後三日以内に前項記載の建物及び物件を収去して土地を明け渡さないときは、債権者の申立てを受けた甲府地方裁判所都留支部執行官は、債務者らの費用でこれを収去することができる、

との裁判を求める。

申請の理由

一 債務者の地位

1 債務者忍草入会組合(以下「債務者組合」という。)は、その標傍するところによれば、「主として明治時代から継続して忍草区に居住し、現に農業を専業とする家の世帯主をもつて構成され、忍草区固有の入会地の保護管理ならびに入会地の利用および入会地から生ずる収益(現物および金銭)の管理運営等を目的とし、入会地および入会財産にかかわる一切の収益の管理・運営および処分に関する一切の事項等を業務とする」いわゆる「権利能力なき社団」である(<証拠略>)。

2 債務者忍草母の会(以下「債務者母の会」という。)は、おおむね、右債務者組合の構成員(世帯主)の家族で、右忍草区に居住の婦女子をもつて構成され、右組合の主張する「入会権」の「擁護」を標傍し、同組合の補償交渉を支援し、その基地反対闘争を推進する目的で結成された、いわゆる「権利能力なき社団」である(<証拠略>)。

二 被保全権利

1 債権者は、別紙物件目録(一)1記載の土地(以下「本件土地」という。)を所有し、これを、同じく債権者の所有に係る別紙物件目録(一)2記載の陸上自衛隊北富士駐屯地梨ヶ原廠舎(以下「梨ヶ原廠舎」という。)敷地(その位置関係は、別紙図面(四)のとおりである。)の一部として管理している。この梨ヶ原廠舎敷地には、廠舎として陸上自衛隊北富士駐屯地北富士演習場(以下「北富士演習場」という。その位置関係は、別紙図面(五)のとおりである。)の管理及び使用統制のための施設並びに同演習場において訓練を行う隊員の宿泊施設が設置されているほか、野営地としても利用されており、いわば同演習場と不可分一体的に使用されている国有財産である(<証拠略>)。

2 しかるに、債務者らは、梨ヶ原廠舎敷地の一部である本件土地上に何等の権原もなく、別紙物件目録(二)記載の建物(以下「本件建物」という。)及び同目録(三)記載の物件(以下両者を合わせて「本件建物等」と総称する。)を共同して建設又は設置の上これを所有し、本件土地を不法に占拠している(<証拠略>)。

3 その上、最近に至り、債務者らは、後述するとおり、本件建物を拠点として、大音量による放送、北富士演習場内座込み等を行い、本件土地を含む梨ヶ原廠舎敷地の本来の用途を著しく阻害し、その円満な使用を妨げている。

三 保全の必要性

1 梨ヶ原廠舎敷地と北富士演習場の一体性

本件建物等の存する梨ヶ原廠舎敷地は、北富士演習場の使用の円滑化のために同演習場と不可分一体的に使用されている土地である。すなわち、梨ヶ原廠舎敷地に常駐する部隊は、同演習場を管理・警備し、同演習場を使用する部隊や後述のように地位協定により同演習場を使用する米軍との連絡・調整を行うことにより、同演習場の安全かつ円滑な使用を確保しているのである。また、同演習場を使用する部隊のうちには、梨ヶ原廠舎内の宿泊施設で宿泊し又は同廠舎敷地で野営する部隊もある(<証拠略>)。このように、梨ヶ原廠舎敷地は、北富士演習場の安全かつ円滑な使用にとつて必要不可欠なものであり、同演習場と不可分一体的に使用されているものなのである。

2 北富士演習場の重要性等

北富士演習場は、師団規模の連続行動を行う訓練や、重火砲による長距離射程の射撃訓練が実施できる大演習場であり、関東地方に所在する部隊のみならず、東海地方、近畿地方、中国地方、四国地方等に所在する部隊も使用している重要な演習場である。同演習場の昭和五七年度の使用実績は、使用日数三一二日、使用人員、延べ約一四万八〇〇〇人である。(<証拠略>)。また、同演習場は、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定二条四項bの適用ある施設及び区域として同条一項により米軍に一時使用を許している演習場でもある(<証拠略>)。

また、同演習場の土地を自衛隊及び米軍が使用することに関して、防衛庁長官は、昭和四八年以来、山梨県知事、北富士演習場対策協議会会長、富士吉田市長、山中湖村長、忍野村長及び富士吉田市外二ヵ村恩賜県有財産保護組合長との間で、五年を期限とする使用協定を締結している(<証拠略>)。この使用協定は、同演習場を自衛隊及び米軍が使用するについて国及び地元の利害関係を調整し、相互の便宜を図ることを目的として(同協定一条)締結されたものである。右の北富士演習場対策協議会(以下「演対協」という。)は、北富士演習場に関係をもつ団体及び住民の権益を守り福祉の向上をはかることを目的として、同演習場をめぐる諸問題を究明して国と交渉する等のために設置されたもので、山梨県、同県議会、関係市村及びこれらの議会、富士吉田市外二ヵ村恩賜県有財産保護組合及び同議会、入会組合(この中には債務者組合と同名であるが、別の忍草入会組合が入つている。)並びに土地所有者によつて組織されている(<証拠略>)。そして、債権者は、「北富士演習場に関する諸問題について地元と交渉し若しくは協議する場合はすべて当協議会をその窓口とされたい」との趣旨の演対協の申入れに応じて、演対協を窓口として同演習場に関する諸問題を解決し同演習場を円満に使用しているところであり(<証拠略>)、本年四月八日には、防衛庁長官と山梨県知事、北富士演習場対策協議会会長、富士吉田市長、山中湖村長、忍野村長及び富士吉田市外二ヵ村恩賜県有財産保護組合長との間で、同月一一日から五年間を有効期間とする使用協定(第三次)が締結され、債権者は、同協定により現在同演習場を使用しているところである。なお、債務者組合は、当初、演対協に加入していたが、昭和四七年四月に脱退し(<証拠略>)、以後、独自の基地反対闘争を行つている。

3 本件建物等設置の不当性

ところで、債務者らは、梨ヶ原廠舎敷地の一部である本件土地の上に本件建物等を不法に設置しているが、この建物等は、演習場反対等の拠点とする目的ないしは意図をもつて設置された闘争小屋ないしは団結小屋である。この点は、次に述べる本件建物等の設置の経緯から明らかである。

(一) 債務者らが北富士演習場に本格的な団結小屋を建てたのは、昭和四二年八月二〇日に、基地反対闘争の拠点とするため、平和利用・演習場全面返還を求めると称して、梨ヶ原廠舎の南々西約一六〇〇メートルの北富士演習場内の中道沿の地点(梨ヶ原地区内弾着区域)にいわゆる団結小屋(第一団結小屋)を建てたのが最初である。債務者らは、この小屋に債務者母の会々員を常時三名程度交替制をとりながら泊り込ませるとともに、昭和四三年一一月までの間に三回にわたり小屋の増設、増強、付帯施設の設置等を行つた。更に、昭和四五年七月には、この団結小屋の周囲に頑丈な木柵(延長約一〇〇メートル)をめぐらし、櫓を組み、八月には、その周囲に深さ三メートル、幅約四メートル、延長約二〇〇メートルのざんごうのような溝を掘り、旗柱をたて、立看板を並べこの小屋を要塞化するに至つた。このように要塞化が急拠進められた契機は、昭和四五年七月六日駐留米軍が北富士演習場において実弾演習を計画し、その旨を地元関係当局に通知したことにある。そして同年一〇月一六日に駐留米軍が、防衛庁に対し、同月二九日から三一日まで同演習場において実弾演習を実施することを通告してくるや、債務者らは、一段とその反対闘争態勢を強化し、債務者母の会を中心に泊込みを強め、支援団体と相携えて実力で演習を阻止しようとした(<証拠略>)。

そこで、債権者は、やむなく御庁に、債務者らを相手として右第一団結小屋の収去と土地明渡しの断行の仮処分を申し立て、一〇月二四日に仮処分の決定を得(<証拠略>)、この決定に基づき同月二七日第一団結小屋を撤去したのである。

(二) その後、債務者らは、昭和四五年一〇月二五日から昭和四六年一二月二〇日にかけて、第二小屋から第一四小屋の一三の団結小屋を設置して基地反対闘争を展開したが、債権者は、その都度これを撤去した(<証拠略>)。

(三) 右(一)及び(二)のとおり弾着区域付近に次々と建てられた第一小屋ないし第一四小屋がその都度債権者により撤去されたため、債務者らは、昭和四七年三月三〇日、設置場所を変えて、梨ヶ原廠舎正門近くの中道沿の地点に第一五団結小屋を設置した。その後この小屋は、廠舎正門側へ四ないし五メートル移動され、小屋のそばに丸太組の監視塔が設置された。この小屋が本件建物である。当時本件建物には、連日、債務者母の会々員およそ三人が交替で寝泊まりし、本件建物等を拠点として、米軍による実弾演習に抗議するための座込みや米兵に対する放送などを行つていたが、昭和五五年一一月本件建物が何者かによつて襲撃されるという事件が起きたことから、債務者らは、本件建物等の周囲特に北側沿いに丸太組みを作り、有刺鉄線等を張つたバリケードを築き、本件建物等を要塞化した。そのため本件建物等は、形態的にも基地反対闘争団結小屋であることがますます顕在化してきた。また、右襲撃事件以来、本件建物等には中核派とみられる者が数人ずつ常駐するようになり、襲撃事件前に出入していた債務者母の会々員らはほとんど出入しなくなつた(<証拠略>)。

(四) 以上のとおりの第一団結小屋の設置から本件建物等の設置に至るまでの経緯から明らかなように、債務者らは、一貫して、基地反対闘争の拠点として団結小屋の設置を続けてきたのである。すなわち、債務者らは、米軍及び自衛隊の実弾演習ないし演習場使用を事実上妨害する目的のみで右各団結小屋を設置してきたのである。また、本件建物等が基地反対闘争のための団結小屋であることは、前述のとおり中核派とみられる者が常駐していることによつても明らかであるが、現地を一見すれば、さらに明白である(<証拠略>)。

4 本件建物等に対する債権者の対応

前項で詳論したとおり、債務者らは、基地反対闘争のための団結小屋たる本件建物等を国有地上に不法に設置しているので、債権者は、この国有財産(土地)侵犯行為を排除すべく、本件建物等の撤去方を、債務者らに再三再四通告したにもかかわらず、債務者らは、全くこれに応じなかつた(<証拠略>)。

そこで、債権者は、何らの権原もなく国有地上に不法に設置された本件建物等について、国有財産(行政財産)の管理上の支障を排除するとの観点から、債務者らを相手としてその撤去と敷地の明渡しを求めて、昭和五七年九月八日付けで御庁に対し本訴の提起に及んだ次第である。なお、本件建物等については、昭和五七年九月七日付けで御庁により占有移転禁止等の仮処分の決定(甲府地方裁判所昭和五七年(ヨ)第一四八号)がなされている(<証拠略>)。

右仮処分決定及びその執行により、本件建物等は、現在、執行官が保管しており、債務者らは、現状を変更しないことを条件にその使用を許されている。

5 本件建物等撤去の緊急の必要性

債権者による前項記載の本訴の提起後、以下に述べるように、早急に債務者らをして、本件建物等を撤去させ、本件土地を明け渡させることを必要とする事情が生じている。

(一) まず、本件建物等に新たに設置された放送施設を使つての放送等による自衛隊の業務妨害という事態が発生している、という点である。

(1) 債務者らは、昭和五八年三月二五日の夜半のうちに本件建物等にラツパ型スピーカー二基を設置した。このスピーカーは、現在に至るまで使用されていないようであるが、同年五月二四日に至り、債務者らは、新たに、本件土地及び本件建物等内に放送施設(アンプ、スピーカー、コード等)を設置した。この放送施設は、外から見えるスピーカーをみても、合計一〇基(箱型四基、平型四基及びラツパ型二基)という大規模のものであつた。債務者らは、同日午前一〇時から約八分間テスト放送をした。この放送による音量は、梨ヶ原廠舎入口で一〇五ホンの大音量であつた。債務者らは、この放送施設を使つて、翌日の五月二五日から六月一一日まで、梨ヶ原の返還要求等を内容とする宣伝放送(北富士演習場闘争の経緯及び債務者らの主張、音楽等)を本格的に行つた。この放送は、午後七時二四分までに終わつた五月二五日の放送を除き、連日、早朝の四時三〇分ころから午後一一時ないし一一時三〇分ころまで六回ないし一〇回断続的に行われ、その音量は、梨ヶ原廠舎内指揮所で、五〇ホンから一〇〇ホンである。この放送施設及び放送については、債権者は、総理府所管防衛庁所属国有財産部局長横浜防衛施設局長名で、債務者らに対し、スピーカー及び附帯施設を直ちに撤去されたい旨の五月二四日付けの通知書を郵送(同月三〇日債務者らに到達)するとともに、放送の都度、梨ヶ原廠舎で勤務する自衛官をして放送中止を警告させたが、債務者らは、これらの通告及び警告を無視し、放送施設を撤去せず放送を続けた。

六月一一日に至つて、警察当局が富士吉田警察署長名をもつて「君達の連日にわたる高音放送のため静穏が害され、近隣の人達が迷惑を受けている。直ちに放送を中止しなさい。」との警告を三~四度行つた。そのためか、債務者らは、六月一二日に、五月二四日に設置したスピーカーを撤去し、新たに箱型スピーカー一基を設置した。債務者らは、この新たに設置した放送施設を使つて、六月二四日正午ころ自衛隊は債務者らの同意がない限り、梨ヶ原を使うことができないという趣旨の放送を約一〇分間行つたのを皮切りに、以後同月二九日まで、連日、午前六時ころ、午前八時ころ、正午ころ、午後三時ころ、午後六時ころの五回にわたり同内容の放送を行つた。この放送による音量は、梨ヶ原廠舎内指揮所で、約九五ホンから約一〇五ホンである。

債務者らは、六月三〇日及び七月一日は放送を止めていたが、同月二日早朝午前四時三〇分から放送を再開し、同日は午前四時三〇分から五時三〇分ころまでと正午ころから午後一時ころまでの二回、翌日の三日は正午ころから午後一時ころまでの一回、翌々日の五日は早朝から債務者母の会々員が演習場内で座込みを行つたためか、正午ころから午後一一時ころまでの間に断続的に四回、それぞれ梨ヶ原の返還要求等を内容とする宣伝放送を行つた。

その後、七月五日から今日に至るまで、債務者らは、六月一二日に設置した放送施設を使い、連日、その日によつて若干時間がずれることはあるが、おおむね早朝の午前四時三〇分ころから五時三〇分ころまで、正午ころから午後一時ころまで、午後七時ころから午後八時ころまで及び午後八時三〇分ころから午後一一時ころまでの四回梨ヶ原の返還要求等を内容とする宣伝放送を行つている。この放送による音量は、梨ヶ原廠舎内指揮所で、六〇ホンから一〇八ホンである。

これらの放送について、債権者は、債務者らに対し、六月二一日付け及び七月五日付けをもつて、五月二四日付けの通告書と同内容・同差出人名義の通知書を郵送するとともに、放送の都度、梨ヶ原廠舎で勤務する自衛官をして放送中止を警告させたが、債務者らは、これらの通告及び警告を無視し、放送施設を撤去せず今日まで放送を続けているのである(<証拠略>)。

(2) 前記二1及び三1において述べたとおり、本件土地を含む梨ヶ原廠舎敷地は、北富士演習場の使用の円滑化のために同演習場と不可分一体的に使用されている土地である。しかるに、この土地の一角に設置された本件建物等を拠点とする(1)に述べた宣伝放送により、債権者は、北富士演習場内で演習部隊と梨ヶ原廠舎に所在する演習統制部隊との無線連絡が著しく困難になるなどの業務の妨害を受け、また、梨ヶ原廠舎内及び同廠舎敷地内で宿泊又は野営している隊員は、早朝の午前四時三〇分に起こされ、深夜の午後一一時まで就寝を妨げられるため、睡眠不足となり翌日の北富士演習場内での訓練能率が大幅に下る等の業務妨害を受けている(<証拠略>)。このような本件土地に不法に設置された本件建物等を拠点とした債務者らの行動は本件土地を含む梨ヶ原廠舎敷地の使用目的に全く相反するものであり、債権者はこれにより、連日、梨ヶ原廠舎敷地と不可分一体的に使用されている北富士演習場における訓練の妨害という国有地の利用上回復し難い損害を受けているのである。

(二) 更に、次のような事情があることにも注意すべきである。

(1) 債務者らは、六月一九日に本件建物等の前に中核派とみられる者二一名を加えた合計一〇一名により「六・一九忍草総決起集会」を行い(<証拠略>)、七月四日には債務者母の会々員九名が早朝から演習場内の弾着地区に座り込みを行い演習を妨害した(<証拠略>)が、最近債務者らの右のような基地反対ないし演習妨害行為が活発となつており、過去の経緯に照らし、将来ともにこれらの活動の拠点として本件建物等が使用されるおそれは極めて大きいものがある。本件建物等がこのような目的で使用されることにより、債権者は、本件土地を含む梨ヶ原廠舎敷地本来の用途を著しく妨害されることとなり、国有地の利用上回復し難い損害を受ける。

(2) 次に、前記三2において述べたように、債権者は、現在、防衛庁長官と地元関係機関との間で締結した使用協定(第三次)により北富士演習場を使用しているところ、本年二月から四月上旬にかけて行われたこの使用協定締結交渉の際に、地元関係機関は、一致して、梨ヶ原廠舎敷地の一部である本件土地を所有し、管理している国に対し、本件建物等を早急に撤去するか、少なくとも本件建物等から中核派を早急に退去させる措置をとるよう強く要請した。この要請に対して、国は、国の責任で早期解決を図る旨約束したところである(<証拠略>)。また、本年六月二四日、演対協理事会において本件建物等の撤去ないし本件建物等からの中核派の排除を強く国に求めるべきであることが討議され、この討議を受けて、七月二〇日、演対協会長ほか同協議会事務局員二名が防衛施設庁本庁に来庁し、本件建物等の撤去又は本件建物等から中核派を排除することを強く要望した(<証拠略>)。

このような地元関係機関の要望は、債務者らを除く地元関係者のすべてが本件建物等が不法かつ危険なものであるとの認識をもつていることを端に表わすものである。そして債務者らの前述の放送等は、地元関係者の危険感ないし不安感を著しく強めるものであり(<証拠略>)、このような事情からしても、梨ヶ原廠舎敷地の一部である本件土地の所有者たる債権者は、国有財産の適正な管理という観点から本件土地上にある本件建物等を早急に除去する必要がある。また、前記三2において述べたとおり、北富士演習場は、極めて重要な演習場であり、このため、債権者は、地元関係者の窓口である演対協と同演習場使用に関する諸問題について協議し同演習場の円満かつ安定的な使用を行つているのである。このような債権者の立場からしても、北富士演習場の一角にあり、債務者らを除く地元関係者全員がその存在を問題にし、強くその早期撤去を求めている本件建物等を、北富士演習場の安定的使用を確保するとの観点から早急に撤去する必要がある。

(3) また、本件土地を大型特殊車両の訓練場用地として使用しなければならない必要が生じている。すなわち、陸上自衛隊東部方面隊では、北富士地区において特殊車両(装軌車)の操従訓練コースを増設しなければならない必要に迫られ、本件土地を含む梨ヶ原廠舎北側の土地が最適地であるので、この土地を右コース用地に当てることとし、これを本年度中に整備する計画を樹立した(<証拠略>)。債権者としては、この整備を計画どおり進めるため本件建物等を早急に撤去する必要がある。

6 債務者らの事情

一方、本件建物等の撤去により債務者らが受ける不利益は、極めて少ないのである。本件建物等は、もともと、何等の正当な権原なく設置され、しかも現在では中核派が基地反対闘争等のために常駐するのみで、債務者らの構成員は、本件建物等で集会が行われるときや演習場内で座り込む際に立ち寄るとき等以外には使用していないという本件建物等の性格及び使用の実態からみて、その撤去によつて、債務者らに属する何人にとつても、居住その他の日常生活を害されることはない。そして、本件建物は、本体を一夜で建てられる程度のトタン屋根木造バラツク平屋建てであり、その他の物件も基地反対闘争等のための道具だての役割をもつに過ぎない。

四 結び

以上のとおり、債権者の被保全権利の存在は明らかであり保全の必要性も十分存在するものである。すなわち、大音量の放送等の債務者らによる本件建物を拠点とした最近の基地反対闘争行動により、債権者は、本件土地をその一部とする梨ヶ原廠舎敷地の使用目的を現に著しく阻害され、このため、連日本件土地と不可分一体的に使用されている北富士演習場の円満な使用に、訓練の妨害という回復し難い損害を受け、また、地元関係者から国有財産の適正な管理上の措置として早急に本件建物等に対する措置をとるよう求められているし、更に、本件土地については大型特殊車両訓練場用地の一部として利用する必要もあるのである。本件建物等設置の経緯、債務者らによる本件建物等の現在までの使用の状況からみて、本件建物等があり限り、債権者が右の著しい阻害、損害等を受ける危険性は非常に大きなものがあるのみならず、本件建物等の存在は、債権者による前記本年度以後の本件土地の利用を阻害することともなる。これに対し、本件建物等の撤去による債務者らの不利益は極めて少ないのである。

よつて、民事訴訟法七六〇条に基づき本件申請に及ぶ次第である。

物件目録(一)1

山梨県南都留郡山中湖村山中字梨ヶ原一二一二番の一五二一

原野 一、九八四平方メートル

のうち別紙図面(一)のイロハニホヘトイを順次直線で結んで囲んだ五六〇・四一平方メートルの部分

物件目録(一)2<略>

物件目録(二)

(主たる建物)

所在 山梨県南都留郡山中湖村山中字梨ヶ原一二一二番の一五二一木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建 居宅兼事務所

二二・六八平方メートル

(別紙図面(二)1のイロハニイの各点を順次直線で結んで囲んだ部分に所在する物件)

(附属建物)

(1) 木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建 便所

三・二四平方メートル

(別紙図面(二)2のイロハニイの各点を順次直線で結んで囲んだ部分に所在する物件)

(2) 木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建 物置

八・九一平方メートル

(別紙図面(二)3のイロハニホヘイの各点を順次直線で結んで囲んだ部分に所在する物件)

(3) 木造トタン張 櫓 一基 高さ約三・五メートル

(別紙図面(二)4のイロハニホヘトチイの各点を順次直線で結んで囲んだ部分に所在する物件)

物件目録(三)

(1) 木造トタン張の囲障及び木柵 延長約一〇〇メートル

(別紙図面(三)1のイロハニホの各点、イチリの各点、ヘトチの各点及びヌルヲの各点をそれぞれ順次直線で結んだ線上に所在する物件)

(2) 木柱

(別紙図面(三)2のイ部分に所在する物件)

(3) 木造トタン張 小便所

(別紙図面(三)3のイ部分に所在する物件)

別紙図面(五) <略>

別紙図面(一)〈省略〉

別紙図面(二)1

第15小屋(主屋)の位置図〈省略〉

別紙図面(二)2

小屋(1)の位置図〈省略〉

別紙図面(二)3

小屋(2)の位置図〈省略〉

別紙図面(二)4

櫓の位置図〈省略〉

別紙図面(三)1

囲障、木柵の位置図〈省略〉

別紙図面(三)2

木柱の位置図〈省略〉

別紙図面(三)3

小便所の位置図〈省略〉

別紙図面(四)

陸上自衛隊北富士駐屯地梨ヶ原廠舎位置図〈省略〉

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